93号(1993年05月)8ページ
出産(ふ化) それぞれの経過(?U)【ニホンザル 当園三代目】
ニホンザルの出産、おかしくも珍しくもなくややもすれば無視されます。丈夫で飼い易く繁殖力が抜群、その上可愛気がないとくればやむを得ないでしょうか。
しかし、私にとっては一味違う感触として伝わってきました。オスは当園生まれの当園育ち、しかも私が担当していた時に生まれ育っているのです。一抹の懐かしさはありました。
かれこれ十余年の間に、父親が死に、母親が死に、新たに迎えた二頭のメスの内の一頭も妊娠中の事故が元で死亡。やっとの思いで、今春三代目の赤ちゃんを迎えられたのです。たかだか言われると、されどの言葉をつけ加えたくなります。
ところで、育児は学習要素が強いことを聞かれたことがあるでしょうか。母親の育児ぶりを聞いていると、どこか素頓狂です。
ふつう生まれたばかりの子は、母親にしっかり抱きしめられているか背負われています。子が自力である程度移動する力がつくまで、自らの体から離すことはまず考えられません。
それがこの母親、周りが静かになると子を床にちょこんとおいてまじまじ眺めるのだそうです。ちょっと信じ難かったのですが、ある日写真を撮ろうと放飼場を覗くと、子は床におかれながらそんなにおどおどしている様子もなく、きょとんとした顔でこちらを見ます。担当者の話、納得させられました。
この母親は、みなし子になって動物園に保護された経験があります。と言うことは、母親になる為の学習が不足したまま大きくなった、と考えても不思議はないでしょう。
そんな粗雑な扱いが原因でもないでしょうが、ちょっとした事故で騒ぎまで起こすおまけまでつきました。子の指に母親の毛がべっとり絡みついて取れなくなり、うっ血してしまう事態を招いたのです。
捕獲して切り取り大事には至りませんでしたが育児中には何が起きるか分かりません。たかだかニホンザル一匹であれ、健やかに育つのを願わずにはいられません。