94号(1993年07月)6ページ
開園以来の動物【ロバのマコ】
マコが危ないとの情報が周囲にひびき渡ったのは、もう何年前でしょう。一時立つことも困難になる程、著しい衰弱も示したそうです。
たかがロバ一頭、されどロバ一頭、開園以来の動物であるロバのマコに、歴代の担当者は想像以上に愛情を注ぎ込んでいます。手厚い看護は再々のピンチを切り抜け、体力、体調を回復させました。
と言っても、寄る年波には抗しようもありません。ただ立っていることさえも辛そうにしていることがあります。
草食獣が立てなくなるのは、死を意味します。よたよたしていたって、とにかく立って歩いてくれなければ元気づけようもないのです。
じめじめした梅雨でなけなしの体力を消耗すれば、冷夏によってわずかながら回復。かと思えば、予想以上に厳しい残暑にまたまた体力の消耗です。雨、気温、湿度を気にして、ほっとしたりため息をついたりの毎日です。余命はいくばくもないでしょう。
このマコを担当することになってから、いわゆる死に水を取ってやる気構えは出来上がっていますが、「あいつは、俺の先生だった」とのかつての担当者の言葉は、ずしりと胸に響きます。決しておろそかには扱えません。
私の知り得る限りでは、ロバの最高飼育期間は上野動物園での二十六年二ヶ月と二十日です。出所さえはっきりすれば、マコはそれをかなり上回るのでは、と思います。来園時には、背中はすっかり平らになっていて、すでに一人前であることを示していました。
背中が平らなのは、人を背中に乗せるのが習慣づいていた証拠です。そう、マコは来園してからも多くの子供達を背に乗せ楽しませた功労者の“ひとり”です。大事にされる訳です。