96号(1993年11月)5ページ
人工哺育・その個体を追う(モンキー編)[投げかけられる生い立ちの影]
動物園が新たに開設される場合、一気に動物が集められる為でしょう、好ましからざると思えるのがどさくさに紛れる感じで入ってきます一般からの寄贈も今と違ってけっこう受け入れられていました。
何が好ましくないって、先に述べた三点に問題があるだけでなく、プラス子殺しの悪癖まで持った動物が入り混じってくることです。
かつてのマントヒヒの夫婦は、その典型的な例でした。
オスは最初の子をメスから奪ってがぶりとひと咬み、メスはメスでその後に生まれた子を次から次へと生み捨ててゆきました。チョウスケ、チョウジの名から次第にオワリ、トメへ。飼育係のうんざりした気持ちがうかがえます。
マントヒヒ夫婦の生い立ち、探りようがありません。しかし、親や兄弟、仲間からまずまず大事に育てられていれば、やる筈のない行為ばかりです。その行為には、人工哺育であったか否かはいざ知らず、正常ではなかった生い立ちがうかがわれます。
違う形で、やはり私達飼育係を悩ませた動物にクロクモザルがいました。子供動物園でペットのようにして飼われていたものの、次第に大きくなって危険になり、同じ地域に産するジェフロイクモザルやシロガオオマキザルと同居させたのですが・・
クロクモザルに劣位の者としてのあいさつ行動の知識があれば、多少のトラブルを引き起こしてもその内溶け込んでゆくものです。が、彼女がひたすら身につけていたのは、ヒトにこびを売る術だけでした。
何かあれば飼育係に助けを乞う行動は他の四頭の総スカンを喰い、しばしば騒乱状態を引き起こしました。二、三年我慢しましたが、結局、平穏を取り戻すには分けるほうがベターとの結論。ヒトに馴れ過ぎた動物の典型的な悲劇例と言えるでしょうか。