96号(1993年11月)6ページ
人工哺育・その個体を追う(モンキー編)[ダイアナモンキー・ダイジ]
二十年近くも前に人工哺育で育てられたダイアナモンキーのことなど誰が覚えているでしょう。当時、ダイジと名付け直接関わった私ですら、その記憶はうろ覚えです。
その個体の行方を追い秋田市大森山動物園で飼育されているのが分かったのは、プリマーテス研究会においてサルの人工哺育をテーマにして講演をして欲しいと、当園の八木獣医が依頼を受けたのがきっかけです。放出先の動物園に尋ねて探してもらい、先に述べた動物園に行き当たった次第です。
本音をチラッと言わせて頂くなら、そんな行先は知りたくないのを否定しません。ろくな話が入ってこないであろうことが、容易に想像がつきます。
でも、反面、好奇心が騒ぐのもさることながら、大事なことではないであろうかとの気持ちが強いのも事実です。文献で学んで知って、諸先輩の話を聞いて納得してしまって、その後をあまりに追わなさ過ぎているように思えます。今回は、その意味ではいいチャンスです。
話は、案の定良くありませんでした。群れの構成員としての資質がかけているのがありありです。しかし、交尾能力を有していたとの話は、驚きには驚きでした。
と言っても、生まれてきた子に対しての慈しみはゼロ、それどころか相当に激しく咬みつくそうです。幼児期に仲間同士の交流がないと、成獣になってから幼獣に対しての思いやりが欠如し攻撃的な態度を取るようになる、ある文献の話がそのまま表れています。
ただ、交尾能力は必ずしも喪失する訳ではないことがここでは言えます。甲府の遊亀動物園に行ったマントヒヒのオスは、メスを見ても全く交尾しようとしなかったそうです。こうして見ると、どの程度の割合で喪失するのか、種によってどう違うのか、今度はその辺を知りたくなってきます。