96号(1993年11月)7ページ
人工哺育・その個体を追う(モンキー編)[コモンマーモセットの場合は
マーモセット類を語ろうと思うと、どうしても栄養的なこと先に浮かんできます。将来のことより今をどうするのか、人工哺育する時にはまずそれを考えていました。
とは言え、小さいながらも彼らもれっきとした真猿類です。将来に何かしらの影響を残さぬ筈はないでしょう。そう思う中でひとつ、私は光明のようなものを感じていました。
サルは通常一産一子、人工哺育をする場合は、母代わりの飼育係と向かい合い、どうしてもそこから生きる術を学んでしまいます。ところが、マーモセット類に限って言えば、二頭で生まれてくるのがごく一般的な例です。
向かい合う相手が飼育係一辺倒にならずにすむだけでなく、絶えず慰さめ合える相手がおり、しかもその時間は飼育係と対比して圧倒的な多さです。つまり、最低限ながら、彼らは、保育箱の中でも仲間同士の社会生活を始めているのです。
コモンマーモセットは都合三回人工哺育したのですが、まだ行先がなくて一頭になってしまった個体と母親が育てた子二頭とを一緒にせざるを得ないケースが生じたことがありました。同居はスムーズに進行しました。
彼らは血縁的にはともかく、全く別々に育っていわゆる他人の関係でした。それが好ましからざる一人前の証明、死産ながら繁殖までして交尾能力もしっかり有していることまで証明してくれました。
一頭での場合はどうでしょう。最初のジャック(オス)と名付けた個体は、その問題を見事に露呈してくれました。
人馴つっこく、発情がくれば私の手が恋人でした。指と指の間にぼっ起したペニスを押しつけてきたのです。他園にいってもそれは変わらなかったようで、他の個体と馴じめたかどうかもはなはだ疑問です。挙句、更にもらわれていった先の園で骨障害での死亡というのは、改めてこの種の持つ飼育の問題点を浮き上がらせました。