96号(1993年11月)9ページ
人工哺育・その個体を追う(モンキー編)[オランウータン・人工哺育は
私がオランウータン・ベリーを見初めたのは、もう何年前でしょう。当時、私が担当していたジュンのお嫁さん探しにやっきになっていた時、遊びに行った先の園で見つけたのです。
あまりにもの可愛らしさに、ジュンが惚れる前に私が一目惚れ。「絶対に嫁さんにして見せるぞ。待ってろ、ジュン」と気持ちは奮い、その後、予想以上にスムースに進んだ経緯は省きます。私がある意味で気がはやり一日でも早く欲しいと思ったもう一つの理由は、彼女が人工哺育であったことです。
ヒトとヒトとの間にどっぷりつかればつかる程、彼女は自らの仲間であるオランウータンを毛嫌いするようになるでしょう。そうした精神的なリハビリ、自分が何者であるかを理解しかつ問題なく仲間と付き合えるようにするには、幼ければ幼い程容易です。
ジュンと同居させるのに二ヶ月かからず、一切合切がスムースにゆくようになるまでに一年しか要しなかったのは、二才余りの幼い時にもらったからでしょう。四〜五才でもらっていたら、その苦労は生半可ですまなかったと思います。
新たに担当する者と信頼関係をより深めることを考えても、幼いほうが容易です。絆が深まれば、成獣になってからも変わりなく付き合えます。それも幼獣時に欲しいと思った理由のひとつです。
その最大目的は、介添保育です。最初の子は生かして取れただけでも上等、ベリーは処置に困って担当者を見るなりすぐ様手渡したそうですが、問題は二度目以降です。
抱くだけは抱いて欲しい、私以上に担当者の切なる願でしょう。そうしてくれればこつこつ積み上げた信頼関係がものを言い、介添保育授乳を教えるのが可能になります。それは人工哺育の悪循環を断ち切る第一歩でもあるのです。(松下憲行)