96号(1993年11月)10ページ
あらかると「パドック」
二十八才と二十五才の女の子、もちろん独身、「えっ!」誰ですか、紹介しろなんて言っている人は。紹介してあげてもいいのですが、大丈夫かな?なにしろ二人とも体重は三・五トンもあるのですよ。
開園して二十五年、日本平動物園と共に成長してきたアジアゾウの「ダンボ」と「シャンティ」は、体格だけでなく精神的にも大きな変化が見られるようになりました。ここ何年か前からお姉さん格の「ダンボ」に自己主張が少しずつ出てきて、「私の主人(佐野)だけよ。それ以外の人の言うことは聞かないわ」を決めつけ始めました。
そうなると、いろいろ困ったことが起きてきました。その最たるのは、主人以外のキーパーが危険にさらされることでした。更に妹格の「シャンティ」まで真似をして命令を聞かなかったら、より困難が増すのは確実です。
キーパーへの危険がますます高まるだけでなく、ゾウ自身にも将来に悪影響が出かねません。できるだけ早く手を打たなければとのことで考えられたのが、今回完成した「パドック(小放飼場)」です。
それはどんなものかと言えば、「ダンボ」の部屋の前の一角を擬木で囲い、一ヶ所にマセン棒が上下するゲート式の出入口があり、作動は無線で遠隔操作できるようになっているものです。主な目的は、「ダンボ」をそこへ誘導した後に「シャンティ」を調教訓練することにあります。
このことにより、一昨年から危険防止の為に複数飼育体制と将来の後継者として担当になった新人(松永、長谷川)の「シャンティ」に対する飼育が可能になりました。又、「ダンボ」自身も不必要な命令をされないのでいやな思いをしないからでしょう、以前敵対していた頃より目付きがやさしくなったような気がします。
パドックにいる間は餌(ペレット)がもらえて居心地は悪くなさそうです。私達にしても安全、かつ安心して仕事ができるのです。
このパドックができるまでには、多額の費用と様々な関係者の理解と協力が必要でした。それにも増して工事期間中の三ヶ月、狭い部屋でストレスをためながらも我慢したゾウにも感謝せねばなりません。
今後も工夫を重ね、ゾウが安心して暮らせるよう、またキーパーもより安全に飼育したいものです。その為にも、パドックはフル活用してゆきたいと思います。
動物園へ来られた時は、午後一時二十分頃ゾウ舎に来て見て下さい。「シャンティ」の調教風景が見られます。パドックには、「ダンボ」が入っている時とまれにキーパーが入っている時があります。注意して見て下さい。(鈴木和明)