でっきぶらし(News Paper)

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社会体験実習を終えて

静岡県立吉原高等学校 教諭 剣持 茂樹

12月末の5日間、日本平動物園で体験実習をさせていただきました。日本平動物園は、私にとって子供のころからなじみの深い動物園です。今回の実習では、動物園を支えている方々の活躍を垣間見ることができました。


《夜行性動物館・熱帯鳥類館にて》

まず、最初の2日間は、夜行性動物館と熱帯鳥類館でお世話になりました。夜行性動物館と熱帯鳥類館は順路の通りに回っていくと気がつきにくいのですが、同じ建物の1階と2階にあります。この建物の中には、日本の野鳥やサイチョウ、ナマケモノ、アムールヤマネコ、ヤマアラシ、ツチブタ、フェネックギツネ、ブチクスクスなどなど、非常に多様性に富んだ個性的な動物たちが所狭しと活動しています。それぞれの特性も様々で、それらが限られた環境の中で生活しているのですから、個々の動物たちの健康を保つだけでも本当に大変なことだと思います。

 この建物の動物たちすべてを担当の方が交代で、毎日お一人で管理しておられます。そのご苦労は並々ならぬものがあるということを2日間の実習を通じて実感することができました。個々の動物の特性や体調に応じてえさの種類や大きさなどを工夫し、餌を作って与えて回るだけでかなりの時間がかかります。また、清掃するにも動物たちを退避させる場所がないため、動物のいる檻の中に入って、常に動物にストレスを与えないよう気を配りながら作業しておられます。物言わぬ動物だからこそ、わずかな行動の変化から状態を見極めてやり、限られた条件の中で考えられる限りの工夫をしていくという、担当の渡辺先生の仕事に対する姿勢には頭の下がる思いでした。


《動物病院にて》

動物園入り口のすぐそばに動物病院があります。人目にはつきにくいところなのですが、ここが動物園を支えている最も重要な場所のひとつです。実習の後半3日間はこちらでお世話になりました。動物病院では、園内で怪我をした動物を治療したり、仲間たちとうまくやっていけなくなった動物を一時的に預かるなど、動物たちが心身ともに健康でいられるよう配慮しながらスタッフの方々が毎日きめ細かなケアをしています。市川先生、野村先生、小川先生たちスタッフの方々はみんな、動物に対する愛情があふれています。毎日傷ついた動物たちの体調を気遣いながら協力しあい、時間を惜しんで動物のケアをしておられます。ハクビシンの子を夜に交代で自宅に連れ帰って授乳するなど、スタッフの方々が献身的に介護しておられました。

さらには園内のみでなく、外部からけがをした動物が担ぎ込まれてくるケースもよくあるとのことでした。実際、実習期間中にも、カンムリカイツブリやオオタカの幼鳥など、何羽もの野鳥が保護されて病院にやってきました。今年は今までに600個体くらいが病院に来ているとのことで、どのような動物がどのようなコンディションで来るかわからないのです。担当の市川先生は、保護された動物の入った箱を開ける時は玉手箱を開けるような気分だと話してくれました。また、「保護」にもなかなか難しい面があり、特に野鳥などの場合には保護したつもりが実際には親から引き離してしまう「誘拐」になってしまうケースもあるなど、考えさせられるお話もうかがえました。

猛禽類などの飼育には、餌として他の小動物の命を犠牲にする必要があります。これは自然界における食物連鎖という必然ではあるのですが、実際にヒヨコやネズミを見ると、複雑な感情が沸きます。このことは、突き詰めていけばわれわれ人間の社会が他の生物を犠牲とした基盤の上に成り立っているのだという、日ごろ忘れがちな現実に関係していることでもあると思います。ネズミやヒヨコがかわいそうというなら、我々が食べているチキンや牛肉はどうなのか。魚は餌になってもよくて、ネズミが餌ではかわいそうと感じるのはなぜなのか。あるいは捕鯨が問題になっているのはなぜなのか。考えていくと、非常に深いものがあると思います。命の重さについて考える機会として、そして、我々自身が「ヒト」という動物の一種なのだという現実を考える機会として、貴重な体験をさせていただくことができました。


《最後に》

文末ではありますが、年末という非常にお忙しい時期に、無理を言ってお願いしたところ、快く実習を引き受けて下さいました日本平動物園の皆様に、あらためてお礼申し上げます。実習の期間中、動物園の方々は私のことを「先生」と呼んで下さったのですが、働く方々がみんなそれぞれのお仕事に自信と責任をもって常に前向きに取り組んでおられ、私にとって毎日が教わることの連続で、周囲におられた方々がみんな私にとってまさに先生なのでした。実習の中で、私の用意した餌を動物たちが食べてくれた時の喜びは忘れられません。ブチクスクスやスローロリスの柔らかい毛並みのぬくもりも。また近いうちに、今度は「お客さん」として、生徒たちと来園したいと思います。貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。

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