193号(2010年04月)2ページ
≪あらかると≫ミーアキャット一家
六頭のミーアキャット一家が日本平動物園にやってきたのは、昨年10月秋のことです。この一家は、猛獣館に住む予定ですが、猛獣館はまだ建設中のため、園内の動物病院で暮らすことになりました。
病院飼育担当の私は、どんな子達かな?と思い、あいさつがてらに一家の部屋をのぞきましたが、おびえている様子で全く巣箱から出て来てくれませんでした。
そりゃ当然ですよね。到着早々、性別確認、体重測定のために押さえつけられたんですから・・・。
いくら健康管理のためとはいえ、一家にしてみれば、ものすごい恐怖だったことでしょう。そんな訳で、しっかり顔を見せてくれるまで待つことにしました。
1日目、2日目と過ぎたけれど、餌に手を付けず、姿も見せませんでした。そして、待つこと3日目の朝、前日置いた肉がなくなっていて、巣箱の外に便も発見!ひと気のない夜の間に、活動している様子でした。4日目の朝になると2頭だけ日光浴をしているところを目撃!しかし、こちらに気付いて巣箱に逃げ込んでしまいました。そんな調子で昼はほとんど姿を見せず、夜の間に活動するといった状態がしばらく続き、いつしか「まぼろしキャット」と呼ばれるようになってしまいました。なかなか全頭確認できず心配になってきました。
そんなある日、獣医さんと他の動物を治療していた時、ミーアキャットの部屋から「キューキュー」と、聞いたことのない小さな声が聞こえてきました。私は以前、子供動物園でミーアキャットの飼育を担当していましたが、その間も聞いたことのない声でした。
「まさか!?」と思い、巣箱の入口をそっとのぞくと・・・な、なんと赤ちゃんが生まれているではないですか!!! 突然の出産です。一家が動物園にやってきて15日目の出来事でした。
ミーアキャットの妊娠期間は約3ヵ月なので、来園時にはもう妊娠していたのでしょう。誕生はめでたいことですが、移動や環境の変化は一家にとって大きなストレスになっているはずです。そんな状況で、ちゃんと子育てしてくれるだろうか!?と心配になりましたが、こればかりはどうしようもないので、見守るしかありません。
そして翌朝、そっと部屋をとぞくと、今までなかなか姿を見せなかった一家が、全頭巣箱から出て来ました。「あれ!?赤ちゃんはほったらかしですか?」と思い耳をすますと、昨日元気に鳴いていた「キューキュー」という声が聞こえません!
・・・不安は的中してしまいました。巣箱は空っぽで赤ちゃんの姿はありませんでした。親が落ちつけず、自ら食い殺してしまったのでしょう。動物によっては、こういった食殺が起こることがあります。今回は残念でしたが、出産できる子がいることはわかったので、次回に期待したいと思います。
それ以来、ちょこちょこ姿を見せてくれるようになり、徐々に私と一家の距離も縮まって、一家の来園から2〜3ヵ月たった頃には、餌をさいそくするほどになりました。
来園から半年ほどたった今、ようやく個々の顔の見分けがつくようになったところですが、猛獣館が完成し、お引っ越しの時が来ました。新居は自然に近い環境になっているので、野生での暮らしぶりを見せてくれることでしょう。
一家が居なくなった入院室はなんだか静かで少し寂しいですが、早く猛獣館の環境に慣れ、お客さんの前で可愛い姿を見せてくれる事を期待しています。
(平野 紗恵子)