でっきぶらし(News Paper)

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≪病院だより≫シロサイの「サイ血」

 皆さんの中で血液検査をしたことがある方はどれ位いらっしゃるのでしょうか?大人ならばほとんど経験したことがあると思いますが、学生の方だとあまり経験したことがないかもしれませんね。血を動物の体から採ることを採血と言いますが、動物を飼われている方は、その種類にもよりますが、動物病院で受診したりすれば、その時に採血の様子を見たことがある方も多いと思います。血液検査をすると、臓器の状態、ホルモンの状態等、色々なことがわかります。
 動物園ではウマやヤギなどの家畜を除くと、大人しく採血させてくれる動物は多くありません。触ることさえ難しい動物も多いですし、麻酔をかけなければ、採血することが不可能であったり、麻酔をかけずに捕まえ、抑えることが出来ても、採血までは無理という動物も多いのです。今回はその中で、意外とも感じられるかもしれない動物から採血するお話です。
 当園では二頭のシロサイを飼育しています。オスのタロウとメスのサイ子の夫婦です。非常に大きな体で、普段はおっとりして見えます。放飼場や寝室の柵越しに体を触られることは好きなようで、嫌がりません。ただ、「待て」と言っても、じっとしている訳ではなく、自分の気分で動いてしまいます。十年以上前に、一時期シロサイからも採血していた時期がありましたが、ここのところ採血を実施していませんでした。
 血液検査は体の状態を知るためには、非常に有用な手段なので、久しぶりに再開したいと考えていました。シロサイから採血する場合は当園では耳から行います。しばらく大人しく耳を掴ませてくれていれば、採血することが出来ます。以前やっていた方法は、放飼場の柵の所までシロサイに来て貰って、採血していました。大人しくしていて貰うためにはどうするかと言うと、餌で釣ることもしますし、シロサイはデッキブラシでこすって貰うのが好きなので、ゴシゴシこすったりします。そこで耳の根元を押さえると血管が膨らんでくるので、そこに針を刺して採血します。
 その間、採血されていない方の個体が、邪魔をしてきたときは、誰かが相手をしていることになります。シロサイの頭には大きな角がありますし、人間とは比較にならない程力持ちです。シロサイに悪気がなくても、角に気をつけないと大変な事態になりかねないので、シロサイの動きや様子に注意を払いながら採血することが重要になります。
 暖かい時期の方が採りやすいことと、四月から飼育担当者が変わったので、時機を見て挑戦し始めようと考えていました。六月のある日、まずは試しと、血を採れなくても良いからと、メスのサイ子だけやって見ることにしました。昼前にシロサイの放飼場に行って、柵の所で待っていると二頭揃ってやって来ました。そこでサイ子とタロウに離れて貰って、採血を試み始めました。耳を掴んで、血管が膨らんできた所で、いざ注射針を刺そうとすると、サイ子が動いてしまったり、オスのタロウが「何やってんの〜」という感じで、ちょっかいを出してきたりして邪魔をしてしまいます。まるで耳を掴んで、追いかけっこをしている様です。十分間程、格闘?しましたが、まだ採れません。「まあ、今日は初日だし、耳を触って、血管を確認しただけで良しとしよう」と思って、担当者にまた次回頑張ろうと話して、病院に戻ろうとしたところ、サイ子が柵のすぐそばでこちらを向いて、じっと大人しくしています。「もしかして採れるかも」と耳の根元を掴みました。ちょっと待っていると血管が少しずつ膨らんできます。この間担当者にデッキブラシでこすって貰い、餌を口元に持って行き、急いで注射針を刺すと、「スーッ」と血液が入ってきました。検査をするには充分な量の血液を初回で採ることが出来ました。一般的な検査をした後、他のホルモンなどを測定するために、残りは冷凍庫で保存することにしました。
 その次の週は、今度はオスのタロウの採血も挑戦することにしました。まずはサイ子からチャレンジです。しかしこの日、サイ子が良く動き回り、タロウの方が近寄ってくるので、目標を途中で変更して、タロウから採血することにしました。丁度通りかかった他の動物の担当飼育員にもシロサイの気を引くことを手伝って貰い、まずはタロウから血を採ることが出来ました。今度はサイ子です。なかなか落ち着いて耳を触らせてくれません。しばらく粘って、ようやく、チャンスが訪れ、採血することができました。
 シロサイの採血は一人だけで出来る訳ではなく、複数の人間の手が必要で、いざやろうと始めても、すぐ採れる状態にはまだなっていません。採血に時間がかかるので、担当者も、獣医も時間に余裕がある状態で行うことにしています。毎週出来る訳ではありませんが、健康診断と繁殖促進の足掛かりを目的に地道にやってゆきたいと思います。ただ、「タロウもサイ子も、もう少し協力してくれればなぁ」と思っています。

動物病院担当 金澤 裕司

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