254号(2020年06月)3ページ
不思議な動物マレーバク
私がマレーバクという動物を担当して4年目になりました。3年間担当していても、いまだにとても不思議な動物だと感じています。
マレーバクは、タイやマレー半島の熱帯雨林に生息している草食動物で、おなかの部分だけが白く、ほかの部分は黒という、くっきりと色が分かれる特徴的な配色をしています。その配色だけでも不思議ですが、子供のころはイノシシのウリ坊と同じ斑点模様で、だんだんと白と黒の配色になっていきます。ですが、実は大人になっても皆さんには見えにくい前足の間には少しだけ斑点模様が残っていたりもします。そして、白と黒の部分の割合もすべてのマレーバクが同じではなく少しずつ違っていたりします。夜に活動する動物だといわれ、白と黒にすることで天敵に見つかりにくくする保護色だといわれていますが、担当している限り、夜も昼もとてもよく寝ているので、保護色になっているのか?と思ってしまいます。
また、体調管理の方法も不思議で、マレーバクだけでなく、バク科の動物はブラシやタオルで体をさすると気持ちよくて横に寝てくれて、蹄の治療などの健康管理を麻酔をしなくてもできる動物です。草食動物とはいえ室内に一緒に入って、ブラシをかけるだけで横になってくれる動物はそんなに多くありません。また、体重が250~400kgあるので、人が壁とマレーバクに挟まれてしまうと危険なくらい大きな動物にも関わらず、ほとんどの個体でブラッシングを行えていることも、私はずっと不思議でした。同じく担当しているシロサイのほうが、マレーバクよりも人懐っこいですが、万が一急に動くなどすると命の危機になることや、マレーバクのようにブラシでマッサージすれば横になるということはないので、室内に一緒に入ることはありません。それでも、バク科に関しては、他の園館でも一緒に入って治療することが多く、当園でも同じように体調管理をしています。
最初に私がマレーバクを担当したときは、3歳のオスのフタバという個体しかいませんでした。フタバはとても臆病で人見知りで、とても警戒心が強く0歳で来園したときは一緒に入ることさえ難しかったそうです。担当になったときもまったく横にならず、私に向かってくることもありましたが、1年かけてゆっくりとならしていきました。1年半ほどすると知らない人がいても大きな音がしてもブラッシングの時は落ち着いてくれていて、今までは、横に寝てくれないときはほとんどなく、横になった状態でお尻の穴から体温計を入れたり、足から採血を行うこともできるほどになりました。そんなフタバとは対照的に、昨年来園したオリヒメというメスは、人工哺育で育ったこともあり、かなり人懐っこく来園者の方にも積極的に近づいて挨拶します。前足を柵にかけて立ち上がってしまうほどアクティブで、柵を高くしてもらったほどでした。撫でられたり、かまってもらうのは好きですが、ブラッシングには頑固で、横になったり座ったりすることを嫌がるので困っています。今オリヒメは、私がフタバの担当をし始めた年齢と同じ3歳なので、若く元気なことも要因だと思うので、あせらずゆっくりとならしていこうと思っています。人懐っこいからといって横になってくれるわけではないところもとても不思議で、撫でてほしいけど座りはしたくないというように意思がはっきりしているところや、気分でころころ変わるところもその個体によって違うようなので、面白いと思っています。
足の爪の数やしっぽなど他にもいろいろと不思議なところがたくさんありますので、当園でマレーバクを見るときは、寝ていて動かなくてもよく観察してみてください。
(井上 志保)