272号(2023年06月)6ページ
ダンボの驚きの記憶力
アジアゾウのダンボは今年で57歳になります。人間でいうと90歳近いおばあちゃんゾウです。今回はそんなダンボの驚きの記憶力についてお話ししたいと思います。
昨年5月にアジアゾウのシャンティが亡くなりました。約50年間、一緒に過ごしていた妹のような存在がいなくなり、ダンボもかなり寂しい思いをしていると思います。シャンティが亡くなった後、飼育員たちで、今までよりダンボと関わる時間を増やしていこうと決めました。寂しい気持ちが少しでも和らぐように、また、より健康に生活してもらいたいという思いからです。
まず関わる時間を増やすためにトレーニングを始めました。これまでダンボはこちらの号令を聞いて動作を行うことはしていましたが、本格的にトレーニングを行うのは初めてです(昔ほんの少しやっていたそうですが)。トレーニングを行うことで、号令だけでは見ることができなかった身体の細部まで見ることが出来ます。ダンボとの時間が増やせて、健康管理にも役立つ、まさに一石二鳥です。
トレーニングを始めてしばらく経ったある日。ダンボがまだうんと若かったころ教えた号令を飼育員が発すると、なんとその号令を覚えていたのです。これには私たちもびっくり。最後にその号令を発したのは20年以上、はたまた30年以上前かもしれません。人間だったら20年以上前のことなんてほとんど記憶のはるか彼方に行って出てきませんよね。それを覚えているダンボ、本当にすごい!
ダンボのこの驚きの記憶力は日ごろのトレーニングで真価を発揮します。普通ほとんどの動物はトレーニングでの新しい動作は嫌がったり、警戒したりで、なかなかすんなりとは覚えてくれません。例えば、私が普段お世話をしているホッキョクグマのバニラ。バニラは採血のために腕を触るトレーニングをしていますが、腕を触ることを嫌がらなくなるまでに半年くらいはかかりました。もちろん動物の中でも性格や種類によってトレーニングの進展具合は変わります。しかしダンボはその記憶力からなんでもかんでもすぐに覚えちゃいます。ここでは簡単に書きますが、トレーニングでは[足を出す→足を触る→足の治療]といった具合に進めていくのですが、普通なら何か月もかかるトレーニングを約2週間ですべてマスターしてしまいました。今では後ろ足に保湿用のオリーブオイルを塗ることが出来るようになりました。
これからもこの調子でダンボの協力を得ながら様々なトレーニングに挑戦していきます。私たちがダンボの健康を守り、いつまでもいつまでも長生きしてもらえればと思います。
片野 孝太郎