43号(1985年02月)9ページ
動物病院だより
昭和六十年代に入り、最初の来園動物は日中友好親善の使者として蘭州市から贈られたヒゲワシとアオカケイでした。動物は場所が変わると警戒して、なかなか餌を食べてくれず、心配することがあります。しかし、中国から来る動物は人にとてもなれていて、環境変化に対してすぐに順応してくれるので助かります。ヒゲワシやアオカケイも例外ではなく、翌日餌を入れるとすぐに食べ始めました。
動物園の動物は、まわりの動物が持っている病気から比較的隔離されています。裏をかえせば免疫性がないと言えます。ですから新しく動物園に入る動物は、一定期間病院内で採食、排便状態、動きなどを観察、検査して「異常なし」と思われるものだけを展示しています。
さて、獣医日誌の一月分を読みかえしてみますと、『一月六日、チンパンジーのリッキーが左上犬歯がかけて、歯肉内に入ってしまったため、歯医者にみてもらう』とありました。人間の医者は、ヒトという一種類の動物に対し、内科、外科、産婦人科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、眼科、歯科など、あらゆる部門に分かれています。ところが、獣医はあらゆる動物が対象とされ、部門ごと専門にもなっていません。私の大学の教授が『獣医とは十の医だ』と言っていましたが、十以上です。その為、どうしても広く浅い知識になってしまうので、専門的になった場合、類人猿ですと人間のお医者さんに御相談するわけです。
そこでチンパンジーのリッキー君も、歯医者さんに見てもらったわけです。幸い、かけた歯が小さかったので歯肉への影響は少しですんだようです。