89号(1992年09月)10ページ
あらかると【フライングケージの改装工事・始末記】
二十四年の才月に、ゾウ舎の隣にあるフライングケージもすっかりみすぼらしくなりました。あちこちで金網はやぶれ、鉄骨はさびだらけです。
八月中旬、その改装工事の為にフライングケージの住人(鳥)達は大移動です。若いタンチョウを入れていた場所を空けて、一時そこへ移すことになりました。
と言っても、三目五科十四種五十点の鳥達を捕獲するのです。口で簡単に述べるようには参りません。
あまり飛べない鳥、マガンやヒシクイは容易に捕まえられましたが、少々小型のカモ類は切羽にしてあったのはともかく、ここで生まれ育ったのは飛翔力抜群で一苦労させられました。更に、ショウジョウトキ、ブロンズトキともなるともうお手上げでした。
そこで、ケージ内にワナを仕掛けることに。フェンスで囲った中に餌を入れて、食べにきたところを扉につけていた紐を引けば、閉まって御用になる手筈でした。しかし、一向にかかる気配はありません。工事の日時は迫って、とうとう人海戦術でやるしかなくなりました。ある人は木に登って飛んでいる鳥を追ったり、又ある人はたも網でつかまえたりして奮闘、どうにか鳥達に怪我もさせずに捕獲できました。
が、実はうまく逃れた鳥がいたのです。体全体が真っ黒でくちばしは赤いハトぐらいのバン。全く忍者みたいにすばしっこく、金網を垂直に上ってしまうぐらい訳ありません。三羽がうまく逃げおおせました。
このバン、朝になるとケージ内の池に餌を探しに出てきていましたが、一週間ぐらい経つとケージ内の餌がなくなったのと、工事の為に扉が開いていたこともあって、次第に外へ出てゆくようになりました。
それでも最初の内は夕方になるとケージ内に戻っていました。しかし、二週間も過ぎると本格的に工事は始まり、いよいよ園内を放浪するようになったようです。
しばらくは野生のバンがいるなんて、うわさになったこともありましたが、数日経つとその姿も見えなくなりました。本当に野生に戻ってしまったのでしょう。
フライングケージは塗装を終え、金網もビニールにステンレスが入ったネットに代えられてイメージは一新しました。やがて、鳥達も帰ってきて、元の賑やかで騒々しくなる光景を繰り広げることでしょう。
(佐野一成)