でっきぶらし(News Paper)

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267号(2022年08月)11ページ

「動物たちのお手入れ事情」

この記事を書いているのは7月なのですが、夏になるとテレビや雑誌でお手入れ特集をよく見かけます。動物たちもお手入れが大事なことをご存じでしょうか?

動物園の動物たちも、ペットの犬猫同様、爪が伸びてきたり、鳥なら嘴が伸びてきたり、どうしてもお手入れが必要になってきます。爪は伸びすぎると、肉球に刺さってしまったり、足の着き方がおかしくなってしまったりします。

鳥の嘴は採食に直結するので、変な伸び方をしてきたらその都度削る必要があります。ふれあい動物園にいるキビタイボウシインコのムーディーは下嘴が上嘴からずれて伸びてしまうので、数か月に1回、麻酔をかけて嘴を整えます。運が良ければ、嘴が整ってイケメン度が増したムーディーに会えるかもしれません。

爪切りについては、日本平動物では、ジャガーやピューマ等、トレーニングで爪切りができる動物もいますが、全ての動物ができるわけではありません。このでっきぶらしの記事でも、過去に何度かアザラシの爪切りについてはお話ししていますので、興味のある方は過去の記事(当園のHPからご覧になれます)を探してみてください。今回は別の動物の爪切りについてお話します。

ミーアキャット等、小型の動物は保定して犬猫用の爪切りで切ります。ミーアキャットは穴を掘って暮らすので、当園の放飼場でも穴を掘って爪が自然に削られればよいのですが、気が付くと魔女の爪のように爪が伸びていることがあります。来園者通路から見ている分には周りをキョロキョロ見渡す姿がかわいらしいミーアキャットですが、さすが野生でサソリを食べているだけあり、怒ると鋭い牙で噛みついてきます。その牙は厚い皮手袋も貫通するのだとか。一時期、動物病院にミーアキャットが入院していましたが、かなり狂暴で餌やりも一苦労でした。怖くて撫でることなんてできません。

保定ができない大きい動物は麻酔をかけて爪切りをします。つい先日、アムールトラのオス、フジの爪切りをする機会がありました。放飼場には爪とぎ用の丸太があるのですが、フジは穏やかな性格からか、のんびり過ごしているうちに爪が伸びすぎてしまったようです。麻酔をかけて全身の検査をしつつ、爪切りをすることになりました。麻酔は吹き矢を使って麻酔薬を注入します。この吹き矢を見せると、大体の動物は警戒心をむき出しにします。チンパンジーなら水や唾をかけてきますし、ライオンなら牙をむき出しにして吠えてきます。ところがフジは違いました。普段、フジは「フジ~」と声をかけると「アオ~」と返事をしてくれるとっても穏やかなトラです。この日も吹き矢をもって現れた獣医に「どうしたの?」と言わんばかりの優しい表情で、座ったまま、こちらを見てきます。非常に申し訳ない気持ちになりながら、プッと吹き矢を打ち込みました。一瞬、「え?」っという顔になってからしばらくして、麻酔が聞き始めて脱力しました。そこから爪切りが始まるのですが、トラの爪は厚く、切るのがとっても大変なのです。(猛獣館に飾ってあるので、見てみてください!)大きなペンチでバキッバキッと音を立てながら爪切りは順調に進み、全ての検査を無事に終わらせることができました。麻酔が覚めて数日間は「フジ~」と呼んでも若干嫌な顔をされましたが、そこは大人なフジ、しばらくするといつもの愛想のよいトラに戻ってくれました。

爪切りなどのメンテナンスは動物が心地よく暮らすために欠かせない仕事です。これからも動物たちが気持ちよく暮らせるお手伝いをしていきたいと思います。         

(山口 真澄)

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