でっきぶらし(News Paper)

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119号(1997年09月)9ページ

動物病院だより

 夕方日が暮れるのも早くなり、朝晩めっきり寒くなってきました。
 事の始まりは10月の終わりの夕方でした。猛獣の担当者から無線で、トラの放飼場に白い物が落ちていると呼ばれ行ってみると、オシッコと一緒に白い液体がべっとりと地面についていました。多分これはメスのミナのものだということで、以前ライオンのメスで子宮蓄膿症という、子宮の中に膿が溜まってしまう病気があったこともあって、すぐに調べることにしました。しかしその時はいろいろ調べても異常はなく、その液体自体も膿とは言えず、特に原因は特定できませんでした。
 そしてその1週間後にまた白い液体が落ちていたので、再検査を行ないました。すると化膿の原因となるような細菌が見つかりました。その液体自体は床に落ちていたものを拾ったものですから、その細菌はミナの体の中から出たものではないかもしれません。しかし白い液体を陰部から続けて出すということ自体おかしいことで、子宮蓄膿症の可能性がかなり考えられました。その場合放っておくと体中に毒素が回ってしまうこともあり、やはり元気なうちに麻酔をかけて手術することにしました。
 猛獣舎の寝室にミナを入れておいて吹き矢で麻酔薬を注射して、麻酔が効いたところで病院に運びました。すぐに手術の準備をして、お腹の毛を刈っていると、お腹にいくつものしこりがありました。それは乳房に沿ってあり、かなりの範囲に広がっていました。それは後で診るとしてお腹を開けて、まず卵巣をみてみると卵巣にも病気があり、乳房のしこりはこれと関係があるだろうと考えられました。そして子宮は赤く炎症はおこっていましたが、膿はそれほど溜まってはいませんでした。しかしこのまま置いておけば子宮一杯に膿が溜まるのは時間の問題でしたので、卵巣、子宮とも取り除きました。
 お腹の傷を縫って次は乳房のしこりの方です。乳房のしこりは、猫の場合悪性腫瘍つまり癌の場合がかなり多く、その場合の再発の可能性はかなり高いと言われています。トラも猫の一種ですから、猫と同じように考えられます。そこで転移もしているかもしれないが取れるだけ取ってしまおうということになり、出来る限り取り除きました。全部で3時間ほどの手術でした。また血液検査から腎臓の機能がかなり落ちていることも判りました。
 さすがに手術の後の2、3日食欲はなく、機嫌も悪かったのですが徐々に食欲も出てきて、入院室に入ると餌の時間かと立ち上がって待つようにもなりました。そして今では部屋の前を通ると「ごはんはまだ?」とついてまわり、鼻を鳴らすようになりました。
 今回は、最初単純に子宮だけの問題だと考えていましたが、後日、検査を頼んでいた乳房のしこりが乳癌だとわかり、他にも腎臓の問題などいろいろと悪いところが出てきてしまいました。動物園では動物の具合が悪くても簡単に検査などする事は難しいこともあり、いつもは、どこが悪いのか頭を悩ませることが多いのですが、先が見えてしまうのも、見た目が元気な分だけ辛いものがあります。これから先はミナがより快適に過ごせるような環境をできるだけ作ってやりたいと思っています。
 ただ辛いことばかりではなく、うれしい出来事もあります。今、動物園では新しい生命が続々と誕生しています。シシオザル、ワタボウシパンシェ、ツチブタの赤ちゃんたちです。赤ちゃんたちの可愛らしい姿と我が子をいたわる親の姿が、それぞれの獣舎で見ることができます。特にツチブタの赤ちゃんが見られるのは日本の動物園でも当園だけですし、親が育てるのも今回が初めてです。今のうちに数?会いに来てください。
(金澤裕司) 

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